トピックス
労働問題(事業者向け)
2018/9/12
残業代定額手当に関する最判(H30.7.19)

1 事案の概要

㈱日本ケミカルの薬剤師として勤務していた正規従業員が、会社に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」)に対する賃金並びに付加金等の支払を求めた事案

2 事実関係

就業時間が ①月曜から水曜までと金曜日で、AM9:00~PM7:30まで、休憩時間はPM1:00~PM3:30までの150分、②木曜と土曜はAM9:00~PM1:00まで。

契約書には、賃金につき、「月額562,500円(残業手当含む)」、「給与明細書表示(月額給与461,500円 業務手当101,000円)」とあった。同様に、雇用契約採用条件にも「業務手当101,000円 みなし時間外手当」、「時間外手当は、みなし残業時間を超えた場合はこの限りではない」との記載があった。賃金規程にも「業務手当は、一賃金支払い期において時間外労働があったものとみなして、時間手当の代わりとして支給する。」とある。

会社は、上記従業員以外の各従業員との間で作成された確認書に「業務手当は、固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)として毎月支給します。一賃金計算期間における時間外労働がその時間に満たない場合であっても全額支給します。」などと記載されていた。

会社は、タイムカードを用いて従業員の労働時間を管理していたが、タイムカードに打刻されるのは出勤時刻と退勤時刻のみであった。本件従業員薬剤師は、H25.2.3以降は、休憩時間に30分間業務に従事していたが、これについてタイムカードによる管理がされていなかった。毎月の給与支給明細書には、時間外労働時間や時給単価を記載する欄があったが、全ての月において空欄であった。

3 原審(東京高裁)の判断(労働者の請求の一部認容)

「定額の残業代の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことができるのは、定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求できる仕組みが備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる。」

「本件では、業務手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが(本件従業員薬剤師)に伝えられておらず、・・・(会社)が被上告人の時間外労働の合計時間を測定することができないこと等から、業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを(本件従業員薬剤師)が認識することができないもであり、業務手当の支払を法定の時間外手当の全部又は一部の支払とみなすことはできない。」とした。

4 最高裁の判断(原審破棄、差し戻し)

「・・・労働者に支払われる基本給や諸手当にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに(労基法37条)に反するものではなく、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことにより、同条の割増賃金全部又は一部を支払うことができる。」

「雇用契約においてある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、・・契約書等 のほか、具体的事案に応じ、・・判断すべきである。しかし、・・・原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない。」(中略)「したがって、上記業務手当の支払により(本件従業員薬剤師)に対して労働基準法37条の割増賃金が支払われたということができないとして原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。」

5 解説

(論点)定額残業代が、それをオーバーして時間外労働をした従業員に対する割増賃金に充当されるかどうか。

高裁は、本件業務手当につき、詳細な事実認定をして、充当についての一定の規範を定立している。

最高裁は、この高裁の規範定立が厳格に過ぎるとして、原審判断を破棄している。

(整理)これまでも残業に関する定額手当が割増賃金の支払として認められるには、まず、当該手当が何時間分の時間外手当に当たるのかが明確になっていなければならないとされていたことが労働事件処理の実務上一般的であった。高裁の上記判断にもそのことが判断要素として真っ先に示されている。

おそらく、この点までは、最高裁も上記判断の中では否定するものではないものと思われる。

要は、それ以外の高裁でさらに会社における当該手当についての労働者が金額を特定して請求できる仕組みであるとか、その余の比較的詳細に規範定立した要件まで厳格に満たさないとダメということには必ずしもならないとしているところが注目される。

最高裁は、具体的事案に応じ、・・・として、

「使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断すべき」としている。

高裁の要件よりももう少し柔軟に判断すべきということかと思われる。

いずれにせよ、事業者としては、定額残業手当を規定する場合には、それが何時間分の時間外労働のものか、そして、定額にしておいて、従業員の労働時間管理(残業状況の管理)を怠ることのないように気を付けなければならない。使用者の労働者に対する労働時間管理をしっかりすることは労務管理の基本と心がけるべきではないでしょうか。

以 上

2018/7/11
勤務間インターバル

安倍政権下、「働き方改革」関連法案が議会を通過し、立法化された。法案の肝となる高度プロフェッショナル制度の適用対象職種や年収は省令や指針へ譲られ、この秋以降さらに労働政策審議会で議論されるらしい。これとは別に、同法案で導入を努力義務とした労働者の「勤務間インターバル」についても注目されている。厚労省の調査(H17年)では、わが国で導入されている企業は、1.4パーセントにとどまるという。そして、最近の総務省の発表によると終業から始業までのインターバル時間が11時間以下の労働者の割合が10.4パーセントにのぼるという。政府としては、この勤務間インターバルを企業に拡大定着させたいところと思われるが、旗振りだけでは、労務管理が難しいとして積極的に導入する企業は少ないのではなかろうか。厚労省の助成金制度にも項目として勤務間インターバル導入への助成金があるものの、実際に利用しようとすると、ものすごく利用勝手の悪い制度と言わざるを得ないところも見受けられる。また、最近では、労働基準監督署による労働時間を中心とした企業の管理状況を担当監督官が定期監督と称して臨検調査にあたり、不備が見られると是正勧告をするようだが、助成金と是正勧告といったいわゆる「アメとムチ」による政策には限界があるというべきである。企業の自主的導入のメリットが必要ではなかろうか。

当事務所では、中小企業をターゲット顧客として、労働時間の管理についての助言・指導を行っている。残業の野放し状態などは、企業にとっても人件費がかさむ経営効率の悪化につながるものゆえ、積極的に就業規則の改定、新しい労働時間管理手法などの導入により労働者にとっては健康面に配慮した、企業にとっても残業、休日出勤を必要なものに限った労務管理をすることは、上記自主的導入につながるものと言えよう。

2018/5/8
労働債権の消滅時効

約2年後(2020年4月)に施行が決まっている改正民法の中で、消滅時効の規定が整理されて従来の短期消滅時効を廃止して一律5年(知ったときから)とすることになっていますが、このこととの関連で、未払い残業代などの労働債権についての消滅時効期間をどうするべきかが議論されています。現行では2年(労基法115条)とされている時効期間を上記改正民法に合わせて5年とする案が有力のようです。この変更は、労働者を雇用している事業者にとっては、大変影響力のある問題です。労働者側からは歓迎されているようですが、請求からさかのぼって2年間分の残業代でもかなりの金額になるのは、訴訟や労働審判を経験した者であれば自明の事柄であり、一人についてそのような判決や審判あるいは和解があると、それに続いて他の労働者からも請求されるリスクがあります。そのようなことになれば、中小企業の事業経営上の死活問題にもなりかねません。これからは、事業者は労働時間の管理にしっかりとした遵法意識をもって臨まないと足元をすくわれることになるやもしれません。参考記事はこちら⇒未払い賃金請求厚労省が延長検討

2018/4/26
懲戒処分の有効性

企業(事業者)は、経営権の一内容から、あるいは、労働契約(就業規則)に基づき、従業員である労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるとされています。懲戒の手段には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒(諭旨)解雇といったものが主な種類です。解雇権濫用の法理に見られるように、使用者は、労働者を当該企業から排除する解雇については、最終的かつやむを得ない手段として慎重に行使しなければなりません。今回紹介する下記の記事は、東京地裁の労働部が都立学校の教員について、同人が生徒との間で交わした不適切なメールのやり取りが教員にふさわしくない行為であったとして、一旦は、懲戒解雇としました。これを裁判(前裁判)で争った当該教員は、解雇無効の判決を得て職場復帰できることになったのですが、それに対して、学校側(使用者である東京都)は、上記同じ行為(教員としてふさわしくないとされた生徒へのメール行為)について、出勤停止の懲戒処分をしたものです。これを当該教員は再び今回の裁判で争ったわけですが、判決は、既に前の無効とされた懲戒解雇の処分を受けた原告に、今回、再度の懲戒処分としてなした出勤停止は、重きに失するとしたようです。裁判で懲戒処分の有効性が争われるケースはよくあるところですが、一番多いのは、解雇についてであり、その他の懲戒処分が争われるケースは、減給を伴う場合はともかく、企業内にとどまる従業員にとっては、使用者と必要以上の対立をしたくないという配慮のもと、裁判で争われるケースはあまり多くありません(個別労働事件としては、このように言えますが、背後に組合が付いて集団的労働闘争の形態を取る場合には、また別の枠組みで検討する必要があります。)。今回のような解雇は重すぎたので、再度、検討の上、別の懲戒処分を選択したわけですが、ここまで来ると、判断者である裁判官(合議体)によって、価値判断が分かれる可能性もあるかもしれません。要するに微妙なケースであるといえます。おそらく東京都は、地裁の判断を争って高裁に控訴することが予想されます。出勤停止とした事情の詳細は、今回の判決を後日労働判例などで見て検証してみたいと思いますが、珍しいケースの事件であることは確かでしょう。似たような価値判断の分かれる事件としては、公務員が酒気帯び運転をしたことを理由とする懲戒処分が争われるケースがあります。対世間の評価がこのような懲戒処分の在り方に反映される典型ともいえます。今回の裁判記事はこちら⇒都立高校教員懲戒処分

2018/4/11
企業支援のための弁護士の活用

中小企業等の事業者支援のための『グレーゾーン解消制度』について 弁護士の活用依頼の場は、訴訟などの裁判事務だけではない。確かに、法的紛争において当事者を代理することのできる職種は弁護士に限られています。他の士業の方々は、代書や事務取扱いはできても、依頼者の代理をすると(ただし、簡易裁判所管轄の代理は司法書士も現在可能です。)、非弁活動として弁護士法に違反することで告発されるおそれが生じます。逆に、我々弁護士は、法的紛争の処理を弁護士以外の者に委託したり、配下の者として処理させてはならないことにもなっています。

ところで、弁護士としての活動の場が、裁判所を中心とした裁判事務に限られるとすると、裁判事件自体は、現在、刑事・民事ともに減少傾向にあると思われます。限られたパイを増やされた弁護士(現在、毎年2000人近くが弁護士に新たになり、そのかなりの人数が東京、大阪などの大都市に集中していると言われています。)で分けるとなると生産性の低い仕事の取り合いになってしまう危惧が生じてきます。

我々弁護士は、他の事業者の方々と同様に、現代の社会にマッチした仕事の場を見出して行く必要があるわけです。

今回、ここで紹介する弁護士の活用の姿は、以前紹介した事業承継に係る弁護士業務と同様に、新たな分野として手掛けて行きたいところです。詳細はこちらのサブホームページを参照してください。⇒中小企業等の事業者支援のための『グレーゾーン解消制度』について

2018/2/23
勤務医の残業代

昨日2/22、東京高裁(差し戻し審)は、勤務医の残業代について、年俸には含まれないとの判断を示した。最高裁からの差し戻しの事案であったこともあり、結論は、ある程度予想できたところです。もう一つ、注目されるのは、この日の判決は残業代を約270万円とし、同額の制裁金と合わせた支払いを命じたところです。この制裁金とは、労働基準法114条で、未払金と同額の付加金の支払を命ずることができるとされている、条文を適用したことになります。使用者側は、そのため約倍額に相当する550万円の支払義務を負うことになります。近時の判決は、労働者の請求によるものではありますが、かなりの確率で裁量に基づきこの付加金を命じているように思われます。参照記事(朝日新聞)はこちら⇒勤務医の残業(朝日デジタルから)

2018/1/31
従業員の仮眠時間

学生寮の警備員の夜勤の際の仮眠時間が労働時間(時間外)にカウントされるかどうかが争点となった事例。また、時給が最低賃金を下回っていたことや時間外賃金の支払いがなかったことが悪質な事案だとして、労基法114条の付加金を制裁として課した事案としても注目される。https://www.asahi.com/articles/DA3S13339440.html

2017/12/27
裁量労働制

1987年労基法改正で導入された裁量労働制度、その後1993年の改正で対象業務を省令で専門業務型が限定列挙され、1998年改正で企画業務型が一定要件のもと新設された。専門業務型の対象業務は、19業務(労基則24条の2の2第2項)が掲げられている。これに対し、企画業務型の裁量労働制は「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、…性質上…その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要…、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定義され、その対象業務は、「適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」が就く場合のみ採用できる。指針において、対象業務となりうる例及びなりえない例がそれぞれ示されているものの、厚生労働省のホームページを見ても、導入のための手続き内容についてはQ&A形式で詳しく説明してあるが、対象業務については、専門業務型に比べて漠然としている印象である。

2004年から、この制度の導入・運用についての要件・手続が緩和されたというが、今回是正勧告された野村不動産の営業社員の例のように安易に導入することにはリスクが伴う。制度の趣旨をよく見極める必要があると思われる。同様に、専門業務型の対象業務においても、報道によると、NHKが今年4月から記者職を対象に導入した専門業務型裁量労働制について、渋谷労基署から「勤務実態を踏まえ、適切な水準となるよう制度内容を見直すように」という指導がされたようである。

このように、一方では労基法が一律的な労働時間規制を改め、量より質の成果報酬を支払うべく規制緩和したものの、他方で、制度が悪用されたり、意図しない業務に拡大適用されて、労働者への負荷となる危険性も存在する。いずれにしても、みなし労働を含めてこの種労働時間管理方法を政策的に企業が採り入れるに当たっては、抑制的かつ慎重な導入が現状では必要と言わざるを得ない。

2017/12/9
事業承継

今日、中小企業経営者が事業承継を考えるケースが増加している。団塊の世代などの経営者がその主な対象とされ、政府も次世代への事業承継を促進させる方策(贈与税、相続税の軽減・免除など)に力を傾けている。

事業承継の方法として、親族へ、従業員へ、第三者へといった承継の相手の問題、株式譲渡か事業譲渡かといった問題など、選択肢がある。

また、選択肢ごとにメリット、デメリットもあり、事業承継自体が抱えるプロパーなリスクも看過できない。

このような事業承継を仲介する会社も多数存在し、実績を上げているが、いずれにしても、法的観点の検討には弁護士が、税務の面には税理士が必要となるほか、登記事務には司法書士など連携した対応が必要となる。

当事務所は、このような連携をつなぐワンストップサービスに努め、中小企業のホームロイヤーを目指すもので、特に、身近な親族や従業員への事業承継を考えている経営者の方々の相談に乗ることができます。事業承継には、親族間の将来的な相続問題(遺言・家族信託など)や従業員や取引先との折衝など幅広い総合的な対策が必要となります。ご相談ください。

2017/12/7
36協定による残業の上限規制

現行労基法は、法定労働時間が、1日8時間、週40時間で、これを超えて使用者が社員を働かせるには36(サブロク)協定を労使で締結する必要があります。昔は、この36協定の上限に制限がなく「青天井」問題が疑問視されていました。現行36協定の限度時間は、1週間で15時間、・・・1か月で45時間など(ただし、当てはまらない業務、例、土木建築、車両運転、研究開発などがある。)とされているものの、さらに、これには抜け道?があり、特別条項付36協定で、一定内容(ここでは省略)を満たすと当該限度時間を延長できることになっていて、ザル規制が問題とされている。

現実には、東証1部上場225社のうち、125社が平成29年7月時点で月80時間以上まで社員残業可とする協定、うち41社が月100時間以上可としていたという(朝日新聞調査より)。

政府は、2019年度には、繁忙期でも月100時間未満とする(年間上限720時間で、月平均60時間)とする方針であるという。

これまでの労基法による36協定の規制の実効性の問題が、いよいよ、安倍政権の「働き方改革」の旗振りにより、罰則付きで上限規制をしようと現実味を帯びてきたように思われます。

経営者の方々も、この動向には敏感でなければならないでしょう。注目しておいてください。