約2年後(2020年4月)に施行が決まっている改正民法の中で、消滅時効の規定が整理されて従来の短期消滅時効を廃止して一律5年(知ったときから)とすることになっていますが、このこととの関連で、未払い残業代などの労働債権についての消滅時効期間をどうするべきかが議論されています。現行では2年(労基法115条)とされている時効期間を上記改正民法に合わせて5年とする案が有力のようです。この変更は、労働者を雇用している事業者にとっては、大変影響力のある問題です。労働者側からは歓迎されているようですが、請求からさかのぼって2年間分の残業代でもかなりの金額になるのは、訴訟や労働審判を経験した者であれば自明の事柄であり、一人についてそのような判決や審判あるいは和解があると、それに続いて他の労働者からも請求されるリスクがあります。そのようなことになれば、中小企業の事業経営上の死活問題にもなりかねません。これからは、事業者は労働時間の管理にしっかりとした遵法意識をもって臨まないと足元をすくわれることになるやもしれません。参考記事はこちら⇒未払い賃金請求厚労省が延長検討
企業(事業者)は、経営権の一内容から、あるいは、労働契約(就業規則)に基づき、従業員である労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができるとされています。懲戒の手段には、けん責・戒告、減給、降格、出勤停止、懲戒(諭旨)解雇といったものが主な種類です。解雇権濫用の法理に見られるように、使用者は、労働者を当該企業から排除する解雇については、最終的かつやむを得ない手段として慎重に行使しなければなりません。今回紹介する下記の記事は、東京地裁の労働部が都立学校の教員について、同人が生徒との間で交わした不適切なメールのやり取りが教員にふさわしくない行為であったとして、一旦は、懲戒解雇としました。これを裁判(前裁判)で争った当該教員は、解雇無効の判決を得て職場復帰できることになったのですが、それに対して、学校側(使用者である東京都)は、上記同じ行為(教員としてふさわしくないとされた生徒へのメール行為)について、出勤停止の懲戒処分をしたものです。これを当該教員は再び今回の裁判で争ったわけですが、判決は、既に前の無効とされた懲戒解雇の処分を受けた原告に、今回、再度の懲戒処分としてなした出勤停止は、重きに失するとしたようです。裁判で懲戒処分の有効性が争われるケースはよくあるところですが、一番多いのは、解雇についてであり、その他の懲戒処分が争われるケースは、減給を伴う場合はともかく、企業内にとどまる従業員にとっては、使用者と必要以上の対立をしたくないという配慮のもと、裁判で争われるケースはあまり多くありません(個別労働事件としては、このように言えますが、背後に組合が付いて集団的労働闘争の形態を取る場合には、また別の枠組みで検討する必要があります。)。今回のような解雇は重すぎたので、再度、検討の上、別の懲戒処分を選択したわけですが、ここまで来ると、判断者である裁判官(合議体)によって、価値判断が分かれる可能性もあるかもしれません。要するに微妙なケースであるといえます。おそらく東京都は、地裁の判断を争って高裁に控訴することが予想されます。出勤停止とした事情の詳細は、今回の判決を後日労働判例などで見て検証してみたいと思いますが、珍しいケースの事件であることは確かでしょう。似たような価値判断の分かれる事件としては、公務員が酒気帯び運転をしたことを理由とする懲戒処分が争われるケースがあります。対世間の評価がこのような懲戒処分の在り方に反映される典型ともいえます。今回の裁判記事はこちら⇒都立高校教員懲戒処分
中小企業等の事業者支援のための『グレーゾーン解消制度』について 弁護士の活用依頼の場は、訴訟などの裁判事務だけではない。確かに、法的紛争において当事者を代理することのできる職種は弁護士に限られています。他の士業の方々は、代書や事務取扱いはできても、依頼者の代理をすると(ただし、簡易裁判所管轄の代理は司法書士も現在可能です。)、非弁活動として弁護士法に違反することで告発されるおそれが生じます。逆に、我々弁護士は、法的紛争の処理を弁護士以外の者に委託したり、配下の者として処理させてはならないことにもなっています。
ところで、弁護士としての活動の場が、裁判所を中心とした裁判事務に限られるとすると、裁判事件自体は、現在、刑事・民事ともに減少傾向にあると思われます。限られたパイを増やされた弁護士(現在、毎年2000人近くが弁護士に新たになり、そのかなりの人数が東京、大阪などの大都市に集中していると言われています。)で分けるとなると生産性の低い仕事の取り合いになってしまう危惧が生じてきます。
我々弁護士は、他の事業者の方々と同様に、現代の社会にマッチした仕事の場を見出して行く必要があるわけです。
今回、ここで紹介する弁護士の活用の姿は、以前紹介した事業承継に係る弁護士業務と同様に、新たな分野として手掛けて行きたいところです。詳細はこちらのサブホームページを参照してください。⇒中小企業等の事業者支援のための『グレーゾーン解消制度』について
昨日2/22、東京高裁(差し戻し審)は、勤務医の残業代について、年俸には含まれないとの判断を示した。最高裁からの差し戻しの事案であったこともあり、結論は、ある程度予想できたところです。もう一つ、注目されるのは、この日の判決は残業代を約270万円とし、同額の制裁金と合わせた支払いを命じたところです。この制裁金とは、労働基準法114条で、未払金と同額の付加金の支払を命ずることができるとされている、条文を適用したことになります。使用者側は、そのため約倍額に相当する550万円の支払義務を負うことになります。近時の判決は、労働者の請求によるものではありますが、かなりの確率で裁量に基づきこの付加金を命じているように思われます。参照記事(朝日新聞)はこちら⇒勤務医の残業(朝日デジタルから)
学生寮の警備員の夜勤の際の仮眠時間が労働時間(時間外)にカウントされるかどうかが争点となった事例。また、時給が最低賃金を下回っていたことや時間外賃金の支払いがなかったことが悪質な事案だとして、労基法114条の付加金を制裁として課した事案としても注目される。https://www.asahi.com/articles/DA3S13339440.html
1987年労基法改正で導入された裁量労働制度、その後1993年の改正で対象業務を省令で専門業務型が限定列挙され、1998年改正で企画業務型が一定要件のもと新設された。専門業務型の対象業務は、19業務(労基則24条の2の2第2項)が掲げられている。これに対し、企画業務型の裁量労働制は「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、…性質上…その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要…、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」と定義され、その対象業務は、「適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」が就く場合のみ採用できる。指針において、対象業務となりうる例及びなりえない例がそれぞれ示されているものの、厚生労働省のホームページを見ても、導入のための手続き内容についてはQ&A形式で詳しく説明してあるが、対象業務については、専門業務型に比べて漠然としている印象である。
2004年から、この制度の導入・運用についての要件・手続が緩和されたというが、今回是正勧告された野村不動産の営業社員の例のように安易に導入することにはリスクが伴う。制度の趣旨をよく見極める必要があると思われる。同様に、専門業務型の対象業務においても、報道によると、NHKが今年4月から記者職を対象に導入した専門業務型裁量労働制について、渋谷労基署から「勤務実態を踏まえ、適切な水準となるよう制度内容を見直すように」という指導がされたようである。
このように、一方では労基法が一律的な労働時間規制を改め、量より質の成果報酬を支払うべく規制緩和したものの、他方で、制度が悪用されたり、意図しない業務に拡大適用されて、労働者への負荷となる危険性も存在する。いずれにしても、みなし労働を含めてこの種労働時間管理方法を政策的に企業が採り入れるに当たっては、抑制的かつ慎重な導入が現状では必要と言わざるを得ない。
今日、中小企業経営者が事業承継を考えるケースが増加している。団塊の世代などの経営者がその主な対象とされ、政府も次世代への事業承継を促進させる方策(贈与税、相続税の軽減・免除など)に力を傾けている。
事業承継の方法として、親族へ、従業員へ、第三者へといった承継の相手の問題、株式譲渡か事業譲渡かといった問題など、選択肢がある。
また、選択肢ごとにメリット、デメリットもあり、事業承継自体が抱えるプロパーなリスクも看過できない。
このような事業承継を仲介する会社も多数存在し、実績を上げているが、いずれにしても、法的観点の検討には弁護士が、税務の面には税理士が必要となるほか、登記事務には司法書士など連携した対応が必要となる。
当事務所は、このような連携をつなぐワンストップサービスに努め、中小企業のホームロイヤーを目指すもので、特に、身近な親族や従業員への事業承継を考えている経営者の方々の相談に乗ることができます。事業承継には、親族間の将来的な相続問題(遺言・家族信託など)や従業員や取引先との折衝など幅広い総合的な対策が必要となります。ご相談ください。
現行労基法は、法定労働時間が、1日8時間、週40時間で、これを超えて使用者が社員を働かせるには36(サブロク)協定を労使で締結する必要があります。昔は、この36協定の上限に制限がなく「青天井」問題が疑問視されていました。現行36協定の限度時間は、1週間で15時間、・・・1か月で45時間など(ただし、当てはまらない業務、例、土木建築、車両運転、研究開発などがある。)とされているものの、さらに、これには抜け道?があり、特別条項付36協定で、一定内容(ここでは省略)を満たすと当該限度時間を延長できることになっていて、ザル規制が問題とされている。
現実には、東証1部上場225社のうち、125社が平成29年7月時点で月80時間以上まで社員残業可とする協定、うち41社が月100時間以上可としていたという(朝日新聞調査より)。
政府は、2019年度には、繁忙期でも月100時間未満とする(年間上限720時間で、月平均60時間)とする方針であるという。
これまでの労基法による36協定の規制の実効性の問題が、いよいよ、安倍政権の「働き方改革」の旗振りにより、罰則付きで上限規制をしようと現実味を帯びてきたように思われます。
経営者の方々も、この動向には敏感でなければならないでしょう。注目しておいてください。
「電通事件」に象徴される企業内の労務管理は、企業責任を問われる時代となりました。
以前の集団的労使関係から、個別労働関係が紛争の中心です。
ブラック企業のレッテルを貼られる前にご相談下さい。
従業員個人の人権と自由を尊重しつつ、企業の発展を図る時代且つ労働者の安全衛生面から、ハラスメント対策も必要となってきています。
更には労働関係法の改正が今日頻繁に行われており、経営者個人でフォローするには限界がございます。そのようなときこそ当事務所のようなホームロイヤーの活用をご検討下さい。