昨年年末H29.12.29の朝日新聞でハーグ子奪取条約の最高裁(H29.12.21)の判断記事を取り上げましたが、これとは別に、H30.3.5、今回は、既にハーグ子奪取条約に基づく確定判決が日本人の母親女性に対して出ていて、同条約に基づく強制執行にもかかわらず子を引き渡さない母親に対して、人身保護法に基づく米国人父からの子についての人身保護請求がなされているという。この記事を読んだだけでは、一般市民の方々には、裁判手続きの構造が分かりにくいかも知れません。近年、少子化社会を反映して、別れた夫婦間における子の親権・監護権の奪い合いが裁判でよく取り上げられています。難しい問題ですが、国内では、まず、家庭裁判所へ子の親権等が自分の方にあることを求める裁判を求めることになります(その際、本案のほかに保全の審判手続もあり、判断が分かれることもあります。)。本件記事のように、国際結婚した夫婦間において、子と暮らしていた本国(外国)から日本人の母親が子とともに本国の実家等へ外国人夫の承諾なく連れ帰ってしまって、そこで生活するようになった場合、外国人夫は、上記ハーグ条約(に基づく子奪取返還のための国内法)に基づき、子の返還請求ができることになっています。本件では、東京家裁にまず事件が係属し、米国人夫へ子の返還を命じる裁判があり、それが確定したため、米国人父親が強制執行を申し立てました。しかし、この強制執行に対して、日本人母親は、あくまで子を引き渡しを拒否したことから(強制執行もこの種事案では無理やり母親から子を実力行使で引き離すことはしていないのが一般的です。)、その後の経過として、今回の人身保護請求を米国人の父親が請求したのですが、原審(名古屋高裁金沢支部)で、人身保護請求が棄却された模様で、それを不服として、米国人父親が上告したものと思われます。この上告審で、最高裁は、双方から審問という形で話をきく期日を開いたということですので、一般的には原審を維持する場合には期日を開かないことからすると、今回は、原審の判断を覆す可能性が高いと見られています。そうなると今度は、子は人身保護請求により米国人父親のもとへ戻せということになるはずです。結果的に、ハーグ条約を遵守する形となるわけです。なお、一般市民の方々は、なぜ、最初から人身保護請求一本で勝敗が決まらないのかと疑問に思われるかもしれません。しかし、人身保護請求には補充性の原則といって、他の手続がほかにない場合に、いわば最後の手段として申立てが許されている性質のものなので、ここまで来ていることになります。子の問題を巡って(元)夫婦間で厳しい対立が生じ、このような人身保護請求手続にまで至るケースというのは、今後も増えることはあっても減ることはないように見えます。ただ、大事なのは、あくまで子の生育環境であって、手続的正義との綱引きになることが多いと言えましょう。
その後、H30.3.15に上記最高裁による判決がなされ、前記ハーグ条約に基づく子の返還を命ずる終局決定に従わないまま子を監護することにより子を拘束していることは違法であるとして、人身保護請求を棄却した原審を破棄して事件を差し戻しました。
貸金などの債権回収のため、訴訟で勝訴判決を取ったはいいものの、債権者が任意に支払わなければ強制執行になる可能性があります。
債務者のどの財産を執行するかを特定する必要があります。仮に預金債権に執行する場合、債務者の銀行預金の支店名まで特定しないと執行申立てが却下されます(最高裁H23.9.20決定)。
現在、法務省では民事執行法の改正を検討している模様です。養育費や賠償金の不払いなどを許さない方向へ進んでおり、今後は上記支店の特定がなくても債務者の財産へ執行が可能となる流れのようです。